能見正比古 Collection
能見正比古・エッセイ~血液型ジョーク集
ジョーク1号
血液型というのは、最初に血液から検出されたために、そういう名詞がついただけ。ほんとうは生物の体を作る材料の違いを示す基準であることを、案外、ご存じない方が多い。もし最初に髪の毛から発見されたら、毛髪型。あるいは強姦犯人の捜査によく用いられるように、男性の放出物質から検出されていたら、ザーメン型という困った名がついていたかもしれない。
材料材質の違いだから、外から見ても、ある程度見分けがつく。牛肉とブタ肉が、見て区別がつくのと同様で、なかには血液型あての名人も各地にいらっしゃって、90%以上の的中率を誇る人もときどき見かける。その見分け方にもいろいろあるが、相手の血液型を尋ねたとき、「何型か、あててごらんなさい」と言う人の7,8割はO型なのだ。
昨年秋、来日中の中国女子バレーボールチームの血液型を聞いたとき、ついでに王さん
という通訳の中年女性にも聞くと、「O型です」と言う。しばらくして、王さんが言いだした。「さっき言ったこと取り消します。ほんとは何型かあててごらんなさい」
しかたなくわたしは答えた。「O型でないとすると、A型なんですか?」
王さんは、勝ち誇ったように言った。「違いました。わたしは、やはりO型です。」
O型の極致というべきか?しかし、O型の人が、なぜこうも自分の血液型をあてさせたがるのか、ほんとうの意味はわからない。
ジョーク2号
かつて某週刊誌で元祖MMKおばさんなる女性が紹介され、その血液型がB型とあった。これはモててモててコまるの略号で、町でやたら男性に声をかけられるのだという。声をかけられるのは、美人ブスの区別はないらしい。これまでの見聞では、B型がもっとも多く、AB型の一部が、それに次ぎ、A型がもっとも少ない。声をかけやすい気さくなムードと人を拒むような厳しい空気の違いのようだ。
ある娘さんのグループに、体験を尋ねてみたことがあったが、やはりB型の娘が、もっとも被害が多い。そして、そのとき、耳よりな話も聞いた。その一人の報告である。
「わたしの友だちの男の子で、ホントにまめに、町で女の子に声をかけるのがいて、声
かけキンちゃんと呼ばれてるの。彼、O型よ」
これも従来までの観察と一致する。声をかけるのは、男女関係に積極派のO型と、どこかで羽目を外す願望を抱くA型の一部だろう。
わたしの弟子の一人で、二十四歳になる、おチカという子がいる。なかなかの美人だが、A型だけに、街では男性に声をかけられないが、先日、関西旅行中、梅田駅付近で、初めて知らぬ男性にお茶に誘われ、感激して、「血液型、聞いてみたら、O型だったわ」と報告してきた。上記のデータの裏づけだが、もう一つ納得させられた。A型の若い男性で率直な好奇心を示すのがよくあり、質問少年と冷やかしていたが、女性にも同じらしい。かかる火急の場で、相手の血液型を聞くなんていうのは、質問少女でなければ、ちょっと
できない芸当であろう。
ジョーク3号
O型には、どうしてこうオッチョコチョイが多いのだろう。知り合いのO型の女の子が、
洋服屋サンに勤めたときの話である。勤務して2~3日め、突如、彼女は、トンキョウな声をあげた。
「あらァ、いま靴下を買ったお客さんに、まちがえてパンツを渡してしまいました」
「バカ、すぐ追っかけて、お取り替えしてくるんだ・・・」
しばらくして、飛び出していった彼女から電話が店にかかってきた。
「どうしたんだ。お客さま、見つかったのか?」
「ハイ、でも、店に帰る道がわからなくなりました。迎えにきてください」
これはO型の強烈な目的志向性の立証にもなる。なにかの目的を追うと、左右へ目がいかなくなるのである。
しばらくして、彼女は、ズボンを注文した客の寸法を合わせるため、ズボンの裾の折り返しを留め針で留めた。ズボンを持ち込まれた縫う係りの者が目をむいた。
「どうしたんだ。このズボンの裾は、血だらけだぜ」
彼女は目を丸くし、そして合点をした。
「どうりで、針が通りにくいと思ったわ。お客さんの足首を縫っていたのね」
それにしても、黙って足を縫われた客は、何型だろうと問題になり、それはA型であると、衆口、意見は一致した。そんなガマン強い人は、A型意外に考えられない。
ジョーク4号
O型は記念品好き、ことに女性は、大事箱などと称するものの中に、他人にとっては、ばかみたいな物まで大事にとっておく。O型の中村メイコが結婚して、夫の神津善行のために最初に作った手料理に使用したタマネギの皮を、いまも保存しているなど、その例である。
私の知人K君は新婚半年め、彼はA型、新妻はO型だった。ある朝、新妻が、
「あなた、三面鏡の上にあったピースの空き缶知らない?」と聞く。
わけをたずねると、「ホラ、新婚旅行から帰った晩、初めてあなたの耳そうじしたでしょ?大事な愛の記念だからその耳あかをとっておいたの」
K君内心がく然とした。ただの空きかんと思って、前の晩捨ててしまったのだ。愛妻のために補完せねば・・・が、そうなると、意地悪く耳あかは出てこない。K君は会社で、親しい同僚に事情を話し、耳あかをわけてもらって、別のピースかんに入れ、そっと三面鏡の下に転がしておいた。
翌朝、新妻は、「あなた、ピースかん、あったわ、三面鏡の下に落っこちていたのよ」
と歓声をあげ、それから、首をかしげた。
「耳あかって耳の中のカビなのかしらね」
「へえ、どうしてだい?」
「えっ?しばらく、おいといた間に、だいぶ、ふえているのよ」
こうしたO型の単純思考が、他の人々から、無邪気の魅力となっているのは、たしかである。
ジョーク5号
AB型の睡眠不足にたいする弱さは、これは体質というよりほかに、言いようがない。AB型には、それぞれ規定の睡眠時間があり、言いかえれば、目覚めている時間に限界量があり、それに達すると、バタン・スーとなる。かつて野球評論家佐々木信也氏と真っ昼間
に対談中、氏が突然スヤスヤと眠ってしまったことがあった。氏のAB型を知っていたから、わたしは驚きもせず、たばこを一服しながら、睡眠量のご充足を待つのである。食事中、料理皿に顔を突っこんだまま眠り込んだAB型氏もあった。
そんなAB型の人でも、その傾向がAB型共通のこととは気づかない。ある中年のAB型氏に一度訴えられた。
「わたしの家内は、どうも愛情不足みたいです」
「ヘーェ、どうして?」
「夜、セックス中、気がついてみると、グーグー寝てしまうんです」
「血液型は?」
「わたしと同じ、AB型です」
わたしは、AB型の睡眠体質を解説し、
「あ、じゃ、愛情のせいじゃないですね」
中年AB型氏は大喜びで帰ってゆき、たいへん人助けをした思いであった。
ある講演の席で、それを話したら会場から声があがった。
「あーッ、うちもまったくそうです」
「えつ、血液型は?」
「わたしも女房も、AB型です」
ついでに、もう一つ裏づけができた。AB型というのは、どうも、我が女房や夫の恥を、平気でバラす傾向がある。
ジョーク6号
わたしのAB型の娘がリスザルを一匹飼っている。名は猿谷モン次郎とつけた。リスザルはだいたいO型が多いので、この猿谷もO型かもしれない。まだ血液型は調べていない。
わたしにひどくなれてすぐ膝に乗る。わたしは禽獣もなつく、自分の人徳に、しばし酔っていたが、気がつくと猿谷めは、わたしの腕に落ちつくとかならず小便をする。ここにいたって、わたしは気がついた。猿谷は、わたしをナメているのだ。だれでもナメた相手の前では、心くつろぐ。そういえば、わたしは三,四歳の子どもにも、よくなつかれるが、なつき方を見ると、やはりナメかげんである。若い母親の前でオドオドしている子どもがわたしの前では、ふんぞり返ってなつく。
どうやら、わたしの血液型B型は、子どもや動物にナメられるらしい。年長とか霊長の威厳を、天性持ち合わせないらしいのだ。昔、家にネズミがよく出た。あるとき机に向かって書見をしていると、ネズミがわたしの背中からかけ上がり、わたしの頭の上で安らかにくつろいだことがある。人間は万物の霊長といってもいい。ただし、B型を除くと、ただし書きを入れねばならない。わたしは、そのことを、あるB型の友人に語った。友人は、大いに共鳴した。
「たしかにそれはある。しかしそれはB型の、よけいな差別をしない美徳だと思うよ」
わたしは、言いかけて、口をつぐんだ。友人の肩に、ゴキブリが一匹とまって、安らかに憩っているのを見つけたからである。
ジョーク7号
あいさつにも血液型の差がある。B型のわたしは、ふりかえってみると、親しい相手に開口一番、「メシ、食った?」と聞くことが多い。そういえば、B型の多い中国でも「おいしい食事をしたか?」が、あいさつの言葉であると、昔、聞いたことがある。A型の多い日本では、時候や天気があいさつになるのは、周囲や環境の状況を気にするA型性といえるかもしれない。
O型の友人たちに、つぎのようなことを、よく言われる。
「おい、どのくらい稼いだ?」「本、売れたってネ。印税いくら入った?」
育ちの悪い連中だけではないのだ。大学時代の親友で、役所の、それも本省の局長を務める相手からも、堂々と聞かれる。金銭や他人の収入は、だれにも関心の的である。だが、なんとなく言いづらいのがふつう。A型がそれを言うときは、皮肉のケース。B型は別の好奇心がつのったばあい。ストレートで率直なO型は、包み隠さないだけなのだ。
わが家にO型の東大生が遊びにきた。良家の若者。大学ではブラスバンドのメンバー。たまたま血液型を検査する血清を入手したところだった。わたしの娘が、検査の練習台を求めていたが、だれも耳を切られるのをいやがって、応ずる者がない。いいカモが来たとばかり娘は彼を試験台にした。
「やっぱり、O型だわ」
娘が結果を述べると、O型クンは、ていねいに頭を下げた。
「タダで検査してくれて、ありがとう」
ジョーク8号
知名人やスターの言動を集めた“ちょっといい話”というテーマがウケている。わたしも頼まれて雑誌に三~四回書いたことがある。この種の話は、わたしの立場からすると、思いがけぬ血液型の特徴を、言葉や行動の端々に見出すこともできて、ありがたい。
これは“ちょっといい話”の開祖でもある戸板康二氏の著書『新ちょっといい話』にあった話だ。B型の森繁久弥とO型の同夫人のこと。繁サンとは、わたしが放送作家の仕事に専念していた時代、よくスタジオで、おつきあいした。B型の典型みたいな人だ。
ある晩、繁サンのところへ客が来た。話がハズみ、たちまち銚子がカラになる。そのたびに繁サンは「おかわり」と叫ぶ。夫人は困ってしまった。もう酒がないのである。察しが悪いのは、B型のツネだ。そこで夫人は、机の下で夫の足をけとばした。が、いくらけとばしても、繁サンは平然として「おかわり」と叫びつづける。そのうち客は、なんとなくソソクサと帰ってしまった。そのあとで夫人は当然ナジった。
「あなた、どうしてあんなに足をけったのに、わたしの合図がわからなかったの?」
繁サンは、キョトンとして、「エ、ちっとも、けられなかったよ」
夫人は夫の足だと思って、客をけとばしていたのである。夫人には、ごあいさつ程度、お目にかかったことがある。たいへん落ち着いた人をお見受けしたのに、やはりO型のオッチョコチョイは、争えないということか――
ジョーク9号
大学の寮にゴロゴロしていたころである。一室五人。そのうちのO型の男が結婚したが、ある朝、突然飛びこんできて、嵐のようにわたしたちをたたき起こして回った。
「さあ、新婚初夜のてんまつをつぶさに聞かせてやるぞ!」
こんな話、つまりエッチな話と自分の体験談になるとO型は目がランランとしてくる。一とおり話終えると、彼はケロッとして、
「他にもあいさつしてくる。ちょっと、これあずかってくれ」と、一升瓶を残して去った。
怒り狂っていたわたしたちが素直にあずかるわけがない。たちまち車座になって一升の酒を飲み尽くし、からの瓶には、お茶を薄めて、酒の色に似せて、つめておいた。いや、わたし一人がそんな悪事をしたわけではない。B型らしくアイデアを提出しただけである。O型は戻ってきて、
「この酒は、女房の実家のみやげで、いまから、仲人の先生のところへ持って行くんだ」
と、問わずに語りに言い残しお茶入り一升瓶をさげて出て行った。わたしたちは、顔を見合わせた。
以下は、後日聞いた話である。
「これは、女房の郷里の地酒です」と瓶を出された先生は喜び、昼間から、おつまみなど、そろえて酒席を作った。先生はA型である。その酒の色をしたお茶を口に含んだときの先生のセリフが、A型サービス精神をあますところなく伝えて泣かせるのだ。
「うーん、さすが地酒はちがう、うまい!」
ジョーク10号
A型がルール、規則、法律に弱いことは、ほとんど体質的のようだ。以前わたしの勤めていた出版社に、A型の編集局長がいた。覇気満々、大胆で勇気ある意見や批判を自慢にしていた。そんなある日、企画会議で、きかない薬やいいかげんな市販薬を斬るといったプランが提案されたことがあった。話を聞いていたA型局長は、ふしぎそうに言った。
「きかない薬って、あるわけないだろ?」
「どうしてですか?」
「だって、みんな厚生省認可済みじゃないか」
やはりA型で、東大出。いつも革新的で科学性に富む意見を言う女の子がいた。あるとき、古代天皇稜を学術調査に公開すべきだという話題が出た。歴史学者や考古学者たちの渇望する話題だ。すると、彼女がボソッと言った。
「そんなこと言うべきじゃないわ。だって、それは、所有権は天皇家なんでしょ」
もっと驚いたのは、A型のわたしの長男の中学生時代である。母親が、通学の途中の自動車交通の激しさについて注意していた。
「だいじょうぶだよ、お母さん、ちゃんと信号を守って渡るし、横断歩道をキチンと渡ってるよ」
「お前がいくらそうしても、自動車のほうが守らないことがあるからね。ちゃんと、やっぱり、左右をよく見るんだよ」
長男はキッパリ言った。
「たとえ、ひかれても、それは、向こうが悪いんだから――」